看護師から独立して4年目で2施設の新築運営に成功。その秘訣に迫る。
2026.08.18

インタビュアー:TNサクセスコーチング株式会社
代表取締役 奥山美奈
和歌山県橋本市にあるコネクトケア株式会社は、2026年現在、創業5年目でありながら4事業、職員25名を抱える企業である。
代表取締役の大田智子さんは、職務経験24年のベテラン看護師。起業4年目にして2つの施設の新築物件で事業を切り盛りする大田さんのことを、私は「資産家のお嬢さん」なのだろうと思っていた。
株式会社LIXILのリビング事業部のプロジェクトチームで顧問をしていたとき、「IGPと行く」という雑誌の連載コーナーを持っていた私は、その取材でLIXILの職員とともに「なな彩」を訪れた。
自身の会社で訪問看護ステーションの顧問もしていた私は、地方の訪問看護ステーションは一軒一軒のお宅が遠いため、収益率が低いのではないかと思っていた。
そこで、ずばり大田さんに聞いてみた。
「新築で生活介護事業所を立ち上げて、来年にはグループホームも立ち上げる予定って、すごいですよね。大田さんは資産家の娘さんか何かなんですか?」
すると、こんな答えが返ってきた。
「あっははははー。とーんでもないです。私、庶民ですよ、庶民の中の庶民!(笑)」
続けて、大田さんはこう話してくれた。
「なな彩(生活介護事業所)は、ある建築会社さんからの賃貸です。でも、ずっと賃貸でやっていて売り上げが上がってきたら、買い取ることもできるんですよ」
巷では、これを「建て貸し事業」というらしい。
素晴らしい。
看護師の独立起業の限界は、1,500万円

私も若い頃は看護師をしていたが、看護師が独立しようとして日本政策金融公庫から借り入れできる額は、1,500万~2,000万円くらいだ。
そのため、看護師が新築物件を建設するビジネスを行うことは不可能に近い。現に、大田さんのグループホームの建築費は、土地取得費を合わせて2億円だという。
しかし、「看護師×建築業」という構図であれば可能だ。
なるほど、なるほど。
2000年に始まった介護保険制度は「地域包括ケアの構築」を目標としてきたが、達成度は決して高くない。医療や介護、福祉に関わっている側として、私はそう感じている。
地域包括ケアが目指す「自助・互助・共助・公助」は、概念としては理想的だ。しかし、行政主導だけで実現することは難しく、自由競争の力があってこそ、「地域包括ケアシステム」は倍速で進むであろう。
大田さんと出会い、私はそう確信した。
「看護師×建築業」だから実現できる建て貸し事業
起業4年目にして、2億円を超える新築物件の中で事業ができるなんて、看護師としても最高だ。
通常の年収で仕事をしている看護師では、到底できない話である。
年収400万~600万円くらいの看護師が起業する場合、訪問看護ステーションを賃貸物件で始めるか、古民家を安く買い、多少広いスペースで複数の事業を併設して収益を少し増やすかくらいが関の山だ。
それでも数年間は、上司に干渉されず、自由に事業を行える喜びを感じることができるかもしれない。
しかし、3年も経てば、
「毎日、これだけ訪問を回って、これから自分はどうするの?」
と、未来の自分の姿に限界を見いだし、燃え尽きてしまうことがある。
もちろん、人の役に立っている実感はある。それでも、将来に限界を感じてしまう訪問看護管理者や経営者を、私はたくさん見てきた。
そのため、「小さく始められる事業」が、必ずしもよいとは限らないという思いもある。
障がい者支援の福祉事業は異業種参入に適している

特に数量規制のない訪問看護は、一旦経営が安定しても、近隣に同業他社が出現するなど、一時たりとも安心できないレッドオーシャンの業界となった。
なぜ国は数量規制を設けないのか、不思議に思うほどである。
そのため、これから安易に訪問看護事業を始めるのはリスクが大きい。異業種から参入する場合は、特にそうである。
その意味でも、大田さんが手がける「障がい者支援を中心とした福祉事業」は数量規制があるため、建物などへの初期投資は大きくても、中長期的には安定した事業経営ができる。
したがって、建築業からの異業種参入も、信頼できる医療者と連携することができれば、うまくいく可能性が高いといえるだろう。
建築業・工務店・不動産業に適した非住宅の居宅型サービス
少子高齢化や建築資材の高騰により、戸建て住宅が建てられず、売り上げが伸び悩んでいる建築業界から見ても、非住宅の建て貸し事業は魅力的である。
今後、この「建て貸し事業」は、雨後の筍のごとく一気に拡大していくことだろう。
建築業の皆さんは、この流れをいち早く読み取り、乗り遅れないことが大切だ。
福祉事業で何より大切なのは、倫理観のある経営
しかし、ここで重要なのは、「不正請求などをしない経営を行う」ということである。
近年、パーキンソン病や難病などを患い、重度の医療ケアが必要な人々を住宅型ホームに入居させ、別棟に設置した訪問看護ステーションから「訪問看護」を過度に提供し、不正請求を行った事業者の摘発が相次いだ。
利益重視で経営してきた人から見れば、日本の診療報酬制度は穴だらけで、いくらでも不正ができるように見えるのかもしれない。
しかし、これらはすべて、国民から徴収された社会保険料である。私は、不正請求を本当に許せない。
看護師でもある私は、自分が難病やがんの末期になり、痛くて苦しいときに、医療者がすぐそばに来てくれることは、涙が出るほどありがたいと思う。
心優しい医療者に支えられていれば、病になったこと自体は不幸であっても、「寿命が尽きるまで頑張ろう」と思えるものだ。
実際、看護師だった頃、がんの末期の方から、次のように言われたことがある。
「お金もないし、優しくしてくれたあなた方に何も返せないけれど、自分が亡くなったら、この身体を解剖して医療の役に立ててほしい」
そんなとき、保険料は高いけれど、やはり日本の手厚い医療保険制度は素晴らしいと思ったものだった。
しかし、不正請求が続けば、診療報酬制度の縛りが厳しくなり、手厚い医療を提供できなくなってしまう。
「余計なことをするな!」と言いたい。
不正請求を重ねるような事業者は、もし自分が同じような病に侵されたとき、自分の首を絞めることになるとイメージできないのだろう。
「楽観性バイアスのかかった金の亡者」である。
3人に1人が、がんになる時代。目先の利益に目がくらみ、大切なことを見失わないようにしなければならない。
今のところの救いは、こうした不正が「医療者の内部告発によって明るみに出ていること」だ。
しかし、昨今の闇バイトなど、若者による犯罪の傾向を見ていると、近い将来、医療者の倫理観もあてにはできなくなるかもしれない。
不正などがなく、クリーンな経営を行っているという第三者評価を受審したい事業者は、一般社団法人IGP協会にご相談ください。
大田さんは、次のように話す。
「障がい者支援は、不正請求などをしなくても十分に利益を出せます」
高い倫理観を持ち、地域のためになる事業を行いたいと考える事業者にとって、この分野は特におすすめである。
地域のすべての人が笑顔になれる福祉事業
利用者とご家族、スタッフが一緒に楽しんだ夏祭り。地域に笑顔が広がる時間となった
先週、大田さんの事業所では、夏祭りを終えたばかりだった。
浴衣を身にまとい、楽しそうに家族と過ごす利用者の姿を見ると、「全身からありがとう」が伝わってくる。
サービスを提供するスタッフの笑顔も、充実感に満ちている。
飾り付け、食事、催し。これらの準備は一朝一夕にはできず、きっと大変だったことだろう。
しかし、利用者の表情を見た瞬間、それまでの苦労が一気に吹き飛んだ。
そんな笑顔なのだ。
土地を提供してくれた地主さん、建物を建設した建築事業者、事業を運営しているコネクトケア、サービスを利用する方とそのご家族、そこで働くスタッフ。
すべての関係者が幸せになれる福祉事業は、「地域包括ケア」そのものである。
今回のインタビューで大田さんの事業の魅力に触れることができ、私まで幸せな気分になれた。
全国に早急に「こうした組織を増やさなくては!」と、開業支援への思いをさらに強くすることができた。
株式会社コネクトケアの大田さん、このたびは本当にありがとうございました。
インタビュー協力者プロフィール
大田 智子(おおた・ともこ)
コネクトケア株式会社 代表取締役。看護師として24年の実務経験を持つ。和歌山県橋本市を拠点に、生活介護事業所やグループホームなど、障がい者支援を中心とした福祉事業を展開している。
執筆者・インタビュアープロフィール
奥山 美奈(おくやま・みな)
TNサクセスコーチング株式会社 代表取締役。看護師としての経験を生かし、医療・介護・福祉分野における経営支援、人材育成、開業支援などに携わる。





