組織と職員の「温度」を 合わせることで
相乗効果が生まれる「実践的看護師マネジメント 第8回」
組織の変化性向と本人の「体温」を知る
前回に続いて、組織の「湯かげん」について考察したいと思います。 まず、経営学者の高橋伸夫氏の作成した質問文を見てみましょう(表)。 システム温を問う質問は「チャレンジする風土があるかどうか」「高い業績を上げたものが昇進するような変化があるかどうか」「個性を発揮するより組織風土に染まることを求められるかどうか」──などで、図内の組織の変化性向(図横軸)を聞いています。 一方、「問題意識を持って改善をしているか」「従来のやり方・前例にとらわれない仕事をしているか」など、「どのくらい仕事に燃え改善しながら進んでいるか」の質問は体温(図縦軸)を図っています。 私は、顧問先でこの質問をもとに各部署でアンケート調査を実施しています。 アンケートはQRコードから答えることができますので、試していただければと思います。 このアンケート結果に基づいて、私は現場に介入し、対処しています。 たとえば「4階病棟は仕事が大変で辞めたいと思っている(熱湯と感じている)人が5人いて、すぐに対処が必要」「2階病棟は忙しい忙しいとスタッフは言うわりに『ぬるま湯』と感じている人が7人いるので、この病棟には看護研究などの負荷をかけても大丈夫」──というようにフィードバックできるのです。 お世辞抜きにこの研究は精度が高く、これまで、組織の現状を把握し改善するのにとても役立っています。 自分の組織が「熱湯」なのか「水風呂」なのか、はたまた「適温」か「ぬるま湯」なのかを知りたい方は、ぜひ、部署ごとで診断してみてください。
[caption id="attachment_74" align="alignnone" width="300"] 出典: 高橋伸夫「ぬるま湯的体質の研究が出来るまで(叩かれることで目覚める)」 『赤門マ ネジメント・レビュー』( NPO法人グローバルビジネスリサーチセンター)第2巻、第6号。 pp.247-278、2003年6月25日 http://www.gbrc.jp/journal/amr/open/dlranklog.cgi?dl=AMR2-6-2.pdf ( 2014 年 7月19日アクセス)[/caption] |
[caption id="attachment_72" align="alignnone" width="300"] 出典: 高橋伸夫「ぬるま湯的体質の研究が出来るまで(叩かれることで目覚める)」 『赤門マ ネジメント・レビュー』( NPO法人グローバルビジネスリサーチセンター)第2巻、第6号。 pp.247-278、2003年6月25日 http://www.gbrc.jp/journal/amr/open/dlranklog.cgi?dl=AMR2-6-2.pdf ( 2014 年 7月19日アクセス)[/caption] |
「ぬるま湯だ」と答えたケアワーカーの「熱き思い」
ある組織で聴取したアンケートでは、病棟のケアワーカーが「ぬるま湯」ゾーンにいるという結果が出ました。 看護助手の業務もこなすケアワーカーの仕事はとても忙しいはずなのに、なぜ結果が「ぬるま湯」なのか、私は不思議に思いました。 早速、ケアワーカーと面談して思いを聞くと、「レクリエーションが少ないこの組織の仕事は、ワーカーにとっては『ぬるい』。 本当はもっとレクをやらなければ『いい介護』とは言えない。 看護助手業務(経管栄養の栄養剤の準備や点滴や吸引の準備等)は本当のワーカーの仕 事ではない。 『看護助手』なんて呼ばれたくない。 私たちは『ケアワーカー』なんだ」と言うのです。 感動しました。 この答えからわかるとおり、この組織のケアワーカーは利用者のQOL(生活の質)を高めようとする「熱き人々」なのだということが、ひしひしと伝わってきました。 レクリエーションの実施は、準備から開催までかなりの労力を要します。 他の高齢者施設で「大変だ、大変だ」といいながらレクをやっていた職員を見ていた私は、「レクをやってあげたい」と思っているような質の高いワーカーが存在するとは思ってもみなかったので、正直、驚きました。 そして、自分の先入観を手放し、すぐに私は施設長にレクリエーションを増やすことを提案しました。 今では、この組織では週に1度のレクは当たり前というふうにガラリと風土が変わりました。 1年後に聴取したアンケートでは、自分の組織は「ぬるま湯」だと答えるケアワーカーは減って、「適温」が増えました。 しかし、もともと体温が高くないワーカー(水風呂位置する者)にとってはレクが増えるのは迷惑で、湯音が上がった(仕事が増えた)と感じ、退職していきました。 組織に変化を起こせば、一時期、水風呂スタッフは辞めていき離職率は上がります。 しかし、「本当のケアを追求したいという質の高い職員のやりがいをつくり、よいスタッフを集めたほうがいい」ということは明白でしょう。奥山美奈
看護師、高等学校教諭(看護)を経てTNサクセスコーチング(株)を設立。管理者教育から採用プロジェクトチームの指導、人事評価の構築などの組織の課題をまるごと解決するマグネット化支援を行う。現職の管理職を、人を育て組織の経営課題も解決する「院内コーチ」へと昇格させる「コーチ認定制度」は奥山オリジナルプログラム。認定者のその数300名。ソフトテニスで3度の国体出場、2013年度マスターズ全国大会準優勝の経験から提供されるコーチングは圧倒的な成果を産んでいる。書著5冊。連載、講演多数。エルゼピアジャパン「上手な叱られ方」「医療にとって本当に必要な接遇とは何か」e-learning講師。S-QUE「訪問看護」e-learning総合監修。