認知症による幻視・幻聴への理解と対応方法|家族や介護者が知っておきたいこと
2025.09.05
認知症と幻視・幻聴の関係
認知症、とくにレビー小体型認知症では、鮮明な幻視・幻聴が現れることが少なくありません。たとえば「足元が川に見える」「食事に虫が入っている」といった体験は、本人にとっては現実そのもの。これが恐怖や混乱を招き、暴言・暴力行為に発展することもあります。
アルツハイマー型認知症でも幻視・幻聴が生じることがありますが、レビー小体型はその頻度が高く、対応の難しさは家族や介護スタッフにとって大きな負担となります。
幻視・幻聴が引き起こす行動とリスク
車椅子移乗の場面
施設での介助中、介助者が段差を下りて車椅子へ移すだけの動作でも、認知症の人には「川に突き落とされる」と見えることがあります。恐怖のあまり暴れる、手を振り払う、突き飛ばすといった行動につながるのです。
食事介助の場面
「虫が入っている」「毒を盛られた」と幻視・妄想が起きると、食事を拒否するだけでなく暴力に発展する場合があります。さらに、面会に来た家族の声を「死ね」と聞き間違えるなど幻聴が加わり、親子関係にも深い傷を残してしまうこともあります。
このように、幻視・幻聴は本人の恐怖体験であるだけでなく、介護者や家族の心を大きく揺さぶります。
なぜ幻視・幻聴が起こるのか
幻視や幻聴の背景には、脳の側頭葉や後頭葉の異常があるとされています。これにより、五感と空間認識にゆがみが生じ、実際には存在しないものが現実のように見えたり聞こえたりします。
症状は視覚や聴覚だけでなく、幻味(変な味がする)、幻臭(変なにおいがする)、体感幻覚(虫が這う感覚)など多様です。本人にとっては耐えがたい苦痛であり、「殺してくれ」と口にしてしまうケースもあるほどです。
対応の基本|否定せず、安心感を与える
認知症の幻視・幻聴に接する際に最も大切なのは、否定せずに受け止め、安心感を与えることです。
- 「ごはんに虫がいる」と言われたら
→「困りますね。すぐに新しいものに替えますね」と優しく伝える。 - 「突き落とされる」と感じているとき
→「こうして手を握っているから大丈夫ですよ」と身体に触れて支える。 - 「亡くなった父がいる」と言ったら
→「会いに来てくれたんですね」と肯定的に返す。
否定したり叱責すると、相手は「敵」と認識しやすく、暴力や拒絶を誘発します。反対に、安心感を与える声かけやスキンシップは「味方」として受け入れられ、信頼関係の維持につながります。
環境整備で錯視を防ぐ
幻視は「錯視」から始まることもあります。壁のしみや木目、市松模様のカーペットが「人の顔」や「迫ってくる模様」に見えるのです。
対策としては、
- 壁のしみや木目はポスターで隠す
- 幾何学模様や市松模様のクッション・カーペットを片づける
- 足元照明を使って明るくする
これにより錯視を防ぎ、転倒や暴力行為のリスクを減らすことができます。
VR教材による理解の促進
筆者は看護師経験をもとに、VR教材で認知症の幻視・幻聴を体験できる動画を制作しました。
VR機器を使えば、自分の足元が本当に川に見える臨場感を体験でき、介助中に患者がなぜ暴れるのかをリアルに理解できます。実際に体験した人は「怖い」と声を上げ、両手を振り払う行動をとるほど。これは、患者が日常的に感じている恐怖を疑似体験できる貴重な学習ツールです。
医療・介護の現場では、スタッフ教育にVR教材を活用することで、対応力の向上と家族への理解促進につながります。
家族ができるサポート
認知症による幻視・幻聴を前に、家族は強いショックや無力感を抱きます。しかし大切なのは、
- 幻覚を否定しない
- 安心させる声かけをする
- 環境を整える
- 必要に応じて医師や専門職に相談する
という基本を意識することです。表面的な励ましより、**「これは症状の一部であり、あなたのせいではない」**と伝えることが、家族自身の心を守ることにもつながります。
まとめ
認知症に伴う幻視・幻聴は、本人にとっては現実そのものであり、恐怖から暴力や暴言に発展することもあります。否定せず安心を与える対応、錯視を防ぐ住環境整備、そしてVR教材などを活用した理解促進が重要です。
介護する側も「敵」ではなく「味方」として寄り添うことで、本人の不安を和らげ、より穏やかな時間を過ごすことができます。





