認知症による暴言・暴力を防ぐ | ハッピーコミュニケーションの極意

2026.01.24

殴られる人はいつも同じ?現場で起きる暴言・暴力の正体

介護・看護の現場において、高齢患者様からの暴言や暴力は、スタッフの精神を摩耗させる大きな要因です。しかし、同じ環境でも「殴られる人」と「そうでない人」がいます。まずは、現場のプロがどのように暴言と暴力を区別し、対応しているのか、その実態を紐解きます。

鈴木看護師のプロの流儀:暴言を笑い飛ばす技術

「これ以上、近づいたら警察よぶからな。やってみろよ、この売女!」 支援先の病院でオムツ交換をしようと近寄った看護師に放たれたこの一言。筆者が幹部とミーティングをしている部屋まで轟くほどの大声だった。

すかさず「もぉ~!警察、呼びたいのはこっちの方ですからね、まったく。そしたら間違いなく捕まるのは〇〇さんですから」と、声高らかに笑いとばしながら上手にオムツを交換する鈴木看護師。驚いてかけつけた筆者が「怖くないんですか?」と尋ねると、「ああ、あの患者さんは暴言だけで基本的に暴力は振るわない人なんで大丈夫です。」とあっさり。プロフェッショナル仕事の流儀の挿入歌が聞こえてきそうなそんな場面だった。

暴言と暴力を分ける「物事の前後」の理解度

療養病棟に長年勤める鈴木看護師には、暴言だけを吐く人と暴力をふるう人との区別が大体わかるそうだ。鈴木看護師曰く、暴言を吐く人の特徴は物事の前後が分かっていて(例えばオムツ交換など)その行為をされたくないという意思があり、「暴言」で回避しようとするが、軽度認知症などで物事の前後がつながらなくなった人は攻撃(オムツ交換)を全力で阻止しようとして、それが「暴力」になってしまうという。

ユマニチュードの実践と「療養に向く人」の共通点

暴力を防ぐためには、患者様にとって自分が「攻撃の対象ではない」ことを伝える必要があります。ここでは、具体的なコミュニケーション技術と、現場で余裕を持つためのマインドセットについて解説します。

目線を合わせ、攻撃の対象ではないことを伝える

できるだけ認知症のある患者には、目線を同じ高さにして目を合わせ、ゆっくりとにこやかに話しかけて身体に触れ、攻撃の対象ではないですよ、ということを分かってもらうように接するという。俗にいうユマニチュードの実践だ。そして、大抵の場合はこの関わりで暴力は回避できるというから驚きだ。「ユマニチュードを大事にしよう」と声をかけあっても、残念ながらスタッフの中にはそれが徹底できない者もいる。

そしてそういうスタッフが部屋をでようと患者に背中を向けた瞬間、ボコッとやられてしまうのだという。筆者も看護教員時代に同じ経験があり納得したのだが、認知症患者に殴られてしまう学生は、他の病棟でもなぜか殴られてしまう。今で言えばその学生は、ユマニチュードがなっていなかったと思う。

ユーモアとマイペースが現場を穏やかにする

鈴木看護師は「何回、殴られても変われないスタッフもいて、療養が合ってないねって思っちゃいます。」と言うので、では逆に療養に合っている人とはどんな人なのかを尋ねると、「いい意味でマイペースを守れる人」「ユーモアがあって高齢者とのやりとりを楽しむ余裕がある人」だと教えてくれた。高齢者になると忘れっぽくなり、何度も同じことを言ったりする。認知症などがあれば尚更だ。ご飯を食べたそのすぐあとで「自分のご飯が盗まれた」と激怒する患者に、真顔で「さっき食べたばかりですよ。」と、対応してしまうから暴言や暴力を引き出す。

「食べてない。盗まれた。」には「ええっ!それは大変、探してきますね。」と一声かけて「ありましたよ。よかったですね!」と、食事についてあるゼリーを差し出したりする。するとすぐに機嫌がよくなり、「本当にありがとう、助かりました。この御恩は一生忘れません」などと大げさに感謝されたりもする。暴言を吐いている患者がいるときは、心の中で「この人を何分で笑わせられるか」と勝手に目標を決めてギャグをいい続ける。するとついに根負けして、怒っていた患者が笑顔になっていたりする。歌が好きな患者の前では鼻歌まじりで仕事をしたりすることで穏やかにできるのだそうだ。

コミュニケーションだけでは防げないケース

一方で、暴言や暴力の原因が性格や接し方だけではなく、病状の変化や薬剤の影響である場合も忘れてはなりません。「殴られてからでは遅い」事態を防ぐための医学的知識の重要性について考えます。

怒りのスイッチが入りやすい裏にある事実

筆者の母のことはたびたびこの誌面でも紹介させて頂いているが交通事故後のトラウマで抗うつ薬を内服していたことがあった。服用してしばらくすると不安の訴えは落ち着いたが、逆に、易怒性が出現し、必死に看病している姉に対して怒りをぶつけることもあった。見かねた筆者が友人の認知症専門医に相談すると、「もしかすると、それってエビリファイ(アリピプラゾール製剤)の適応かも。高齢者はちょっとしたきっかけがいろんな病気を引き起こすからねぇ。」とアドバイスをもらった。

知らないことの恐ろしさ

そんなとき、偶然にも製薬会社が企画したエビリファイの勉強会の誘いがあり、早速参加してみることにした。結論から言うと同薬は双極性障害と統合失調症の素晴らしい治療薬のようだった。知らなかった。勉強になったのと同時に、医療者は生涯勉強を続けなければやっぱりダメだなぁと深く反省もした。結果的に母は事故のショックによる一時的な不眠とうつ状態で、無事に回復したのでよかったが、筆者は受傷後の母の症状は「うつ」によるものだとしか見ていなかった。「双極性障害」によるものだったとしたら、かかりつけ医に処方された薬を飲んでもよくなっていなかっただろう。あらためて、知らないということは恐ろしいことだ。

些細な変化を見逃さない「きめ細やかな観察」が大切

高齢者は複数の慢性疾患を抱えていることが多く、併発した疾患の初期症状を見分けることも難しいと言われる。またポリファーマシーの問題もあるため、普段のきめ細やかな観察がカギを握る。外来を受診している高齢患者の表情が乏しくなった、最近、怒りっぽくなったというような、些細な変化を見逃さずに適切な治療に早期につなげていきたいところである。

あなたの病院スタッフは認知症患者に適切な対応がとれていますか?

「本来の看護(ケア)」ができる人材がいる一方で、現場には患者へ適切な対応がとれないスタッフがいることに悩む管理者様も多いのではないでしょうか。

私はよく、組織の人材を「お湯」に例えてお話ししています。

「熱湯の看護師」:本質を求めすぎて、頑張り屋さんだがすぐに燃え尽きたり、辞めてしまう。
「水風呂スタッフ」:「それは私の仕事じゃありません」と線を引き、給料分の仕事しかしない(サボってしまう)。

出典: 高橋伸夫「ぬるま湯的体質の研究が出来るまで(叩かれることで目覚める)」

熱湯と水風呂が混在し、組織全体が「成長のないぬるま湯」になってはいませんか?

「なぜ、優秀な「熱湯」スタッフから辞めていくのか?」 「どうすれば「水風呂」スタッフの温度を上げられるのか?」

そのヒントは、まず現状の「温度分布(貴院の状態)」で可視化することから始まります。 本来の看護ができるスタッフを育てたい方は、まずは奥山にご相談ください。

奥山美奈
奥山美奈
看護師、高等学校教諭(看護)を経てTNサクセスコーチング(株)を設立。管理者教育から採用プロジェクトチームの指導、人事評価の構築などの組織の課題をまるごと解決するマグネット化支援を行う。現職の管理職を、人を育て組織の経営課題も解決する「院内コーチ」へと昇格させる「コーチ認定制度」は奥山オリジナルプログラム。認定者のその数300名。ソフトテニスで3度の国体出場、2013年度マスターズ全国大会準優勝の経験から提供されるコーチングは圧倒的な成果を産んでいる。書著5冊。連載、講演多数。エルゼピアジャパン「上手な叱られ方」「医療にとって本当に必要な接遇とは何か」e-learning講師。S-QUE「訪問看護」e-learning総合監修。
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