対策は万全ですか?『ペイシェント・ハラスメント』〜ニュースでも話題の接遇大会〜
2026.03.02
「接遇を競う大会」を初めて開催
先日、大阪で病院、クリニック、薬局、訪問看護ステーション等で勤務するスタッフの『接遇を競う大会』を行った。なんと読売テレビと出版社の取材が2件も入った。カスタマーハラスメントの法整備もあり、注目度が高かったのか、ニュースで放映された「接遇大会」の様子は、読売TVのTikTokにアップされるなど、大きな反響を呼んだ。これには関係者一同、びっくり仰天。と同時に、『今まで悩んでいたのは、自分たちだけではなかった』と、あらためてペイシェント・ハラスメントへの対策を考えさせられた。
なのでぜひ、本稿でこの大会の様子を紹介させてほしい。出場は6チームで、公立甲賀病院(滋賀県)、山陽病院(広島県)、株式会社コネクトケア(和歌山県)、アルカ薬局(兵庫県)、あんようじこどもクリニック(栗東市)、ヴェクソンインターナショナル株式会社(東京)であった。「無理難題を押し付ける模擬患者に、冷静、かつ、スピーディに対応し、クレームを鎮火させる」。そんなゴールを目指し、6チームがロールプレイに挑んだ。模擬患者は元医療介護従事者で、事例の作成は看護師の筆者が行った。ゆえに会場はこれまでにない「生々しさと重苦しさ」に包まれた。
早速、3つの事例をご紹介したい。
生命保険給付金のため、診断書の書き換えを求める事例
公立甲賀病院の医事課職員への事例は「生命保険の給付金が低くなるため、一度作成した診断書の診断名を書き換えろ」という激しいクレーム。この模擬患者は筆者が担当。クレームの内容よりも筆者の鬼の形相に翻弄され「実力を十分発揮できずに悔しい」とは青木さん、西さん、三輪さん。熱が入りすぎたことを反省した筆者だったが、「来年こそ、優勝を狙います!」と、早々にリベンジの意思を表明してくれ、ホッとしたのと同時に、なんと頼もしいスタッフなのだろうかと感激した。ぜひ、来年に期待したい。

何度も同じ話を繰り返す認知症高齢者の事例
山陽病院の受付スタッフの事例は「何度も同じ話をくり返し、 会話を終わらせようとすると怒り出し、特別扱いを要求してくる認知症患者への対応」であった。親身な対応が際立つ山陽病院。ロールプレイ後に筆者が声をかけると、「こうした患者さんはホントにいらっしゃるので認知症について勉強したりしています」と、細川さん、岡本さん。「仕事を早くこなすにはすぐに会話を切ればいいのかもしれないんですけど、この怒りって認知症悪化の症状?表情も前より険しくなってるな、なんて思うとつい聞き入ってしまって」と猛省している。これは反省より、彼女らは「看護業務でいうところの『観察と情報収集とアセスメント』を自然に行っているのだから「サービス提供の質が高い」と言え、むしろ褒められる場面である。

人手不足が常態化している医療界では、ともすれば彼女らのこの「ひと言」はスルーされ、仕事が遅いと評価されてしまうかもしれない。しかし、コスパ、タイパだけに捉われては本末転倒ではないだろうか。職域を超えた仕事や役割以上の仕事を依頼すると「それって私の仕事じゃありません」なんていう職員が多い中、彼女らのあり方は、美しく懐かしい。
一方で、専門職不足を補うため、「タスクシェアを推進せよ」という流れ通りに、検査や予防接種についての説明を事務職がするように業務拡大を図ると「医療者以外に説明をさせるな」と反対する者もでてくる。ナイチンゲールは看護覚え書きという書籍の中で、「すべての女性は看護師である」と綴っている。理由は、子どもや家族の看病や介護を通して女性は『看護』を経験するからだとしている。(多様性の現代は男性も看護師であろう)ナイチンゲールの意見に私も賛成だ。
看護師は3200時間で育成される。看護学校に入学したばかりの段階では学生は何の知識もないが、「看護」を学んで看護師になっていく。「診療の補助業務」における予防接種や検査介助の項目を看護師用のテキストなどで学習すれば、十分に事務職が説明業務を担当することは可能だと元教員として断言したい。現に、筆者が教育支援をしている健診センターでは、これらの説明は専門職より数をこなしている事務スタッフの方がはるかに上手い。長くなったが今回の大会で事務職の方々のポテンシャルの高さにタスクシェアの可能性を大いに感じた。長谷川式スケールなど学習し、やりとりができれば病院の窓口で認知症のアセスメントができ、適切な診療につなげることができるようになると思う。
娘のオーバードーズは薬局の責任だと詰め寄る父親の事例
アルカ薬局に出されたのは中学生の女子のオーバードーズの事例で、難易度が高いものだった。「娘が抗不安薬と睡眠薬を大量服用し、救急搬送された。どうしてくれるんだ」と父親が怒鳴りこんでくるという設定だ。

薬剤師の白水さん、中原さんの対応はじつに完璧であった。激高する父親に、彼らは開口一番「娘さんの容体はいかがですか」と言葉をかけ、一気に父親の表情を緩ませた。人は一方的に責められると防衛反応が働き、「言い訳」をしがちだが、彼らは父親の訴えを真摯に傾聴し続けた。「学校の先生方も心配されていると思いますので、僕たちが学校にうかがい、お薬の効能や多く飲んでしまったときの対処法などを説明させて頂けないでしょうか」と提案すると、父親は安堵の表情を浮かべた。さらに、娘さんが「お薬を一気に飲んでしまいたい」という気持ちになるまで追い詰められた何かがあったのだとしたら、これが役に立つかもしれませんと、悩み事を無記名で相談できるアプリケーションを紹介すると、父親から感謝の言葉がでた。クレームが職員の対応で感謝に変わった瞬間だ。
満場一致で、アルカ薬局は優勝。欧米式にペイハラと法律で裁くのは簡単だが、医療者側の不適切な対応がクレームを助長させることもある。職員間で対応を分析する風土を作り、彼らのように「医療者側の慈愛で相手を感化する」ような崇高な交流が、日本の医療現場にはふさわしいし、医療スタッフにもそれができる優しさと力がある。今大会を通して筆者はそう感じた。





