「ヒアリングフレイル」との向き合い方|高齢者の難聴と家族ができるサポート

2025.09.05

はじめに

高齢化が進む日本において、「耳が遠い」という問題は多くの家庭で直面します。単に聞こえにくいだけではなく、会話の減少や孤独感、さらにはうつ症状や認知機能低下にもつながるのが難聴です。こうした状態は「ヒアリングフレイル」と呼ばれ、早期に対応しなければ生活の質を大きく損ねてしまいます。

本記事では、筆者の母親(83歳)の実体験をもとに、ヒアリングフレイルが家族関係に与える影響や、改善のきっかけ、家族ができる具体的なサポート方法を紹介します。

ヒアリングフレイルとは?

フレイルとは「加齢による心身の虚弱状態」を指し、ヒアリングフレイルは難聴によって人との交流が減り、心身が衰えていく状態を意味します。

ヒアリングフレイルのサイン

  • 会話で「聞こえない」と繰り返す
  • 家族が声を張り上げる必要がある
  • 本人が「もういい!」と会話を諦める
  • 結果として家族関係がギクシャクする

こうした悪循環が続けば、孤独や抑うつにつながりやすくなります。

体験談:補聴器を嫌がる母

筆者の母も10年ほど前から難聴が進行し、会話は常に大声。補聴器を何度も購入しましたが「痛い」「合わない」と使わず、家族は「声がれ」し、母は聞こえない frustration から怒って自室に閉じこもる──そんな日常が続いていました。

転機となった交通事故

年末、母は道路で車にはねられ入院。幸い命に別状はなかったものの、介護認定は要支援2となり、家族が密に関わる時間が増えました。その中で母は初めて「家族に迷惑をかけたくない」と言葉にしました。事故をきっかけに、母の気持ちや家族の向き合い方が大きく変わったのです。

かかりつけ医の一言

退院後に受診したかかりつけ医は母にこう尋ねました。

「聞こえがよくないことで困っていることは何ですか?」

母は涙ぐみながら「家族に迷惑をかけること」と答えました。その後、医師が補聴器に触れながら「毎日つけることはとても良いことですよ」と伝えると、母はようやく補聴器を日常的に装着するようになりました。

ここには「見る」「話す」「触れる」という基本的なケアの姿勢がありました。人は「大切にされている」と感じると、心を開きやすくなるのです。

家族が導入した工夫

母とのコミュニケーション改善のため、家族は次のアイテムを導入しました。

  • 乾電池式メガホン:大声を出さなくても会話が可能
  • ホワイトボード:筆談でスムーズに意思疎通
  • 見守りカメラ:離れていても音声やブザーでやりとり可能

これらにより家族の声がれはなくなり、母も怒ることが減り、家族関係が劇的に改善しました。

孤独がヒアリングフレイルの根底にある

母は日々、聞こえないことによる孤独を抱えていました。

  • うまく意思疎通できないもどかしさ
  • 老いによる機能低下への不安
  • 誰にも分かってもらえない孤独感

つまり、ヒアリングフレイルは「身体的問題」だけでなく「心の問題」でもあります。

家族ができる具体的サポート

1. 補聴器の継続利用を支える

耳に合わない場合は専門家に相談し、本人が納得できる環境を整えることが大切です。

2. 会話の工夫

  • 正面から口元を見せて話す
  • ゆっくりはっきりと話す
  • 必要に応じて筆談やツールを活用する

3. 医療機関との連携

耳鼻科での定期的な検査や、睡眠・不安に関する受診も欠かせません。

4. 孤独を和らげる関わり

見守りカメラやこまめな声かけ、家族の「大切に思っている」というサインが心を支えます。

筆者自身の気づき

筆者自身も耳鳴りを経験し、母の辛さを実感しました。相手の立場に立つことの難しさ、そして小さな配慮の大切さを改めて学びました。医療者としても家族としても、思いやりを持って関わることが何よりも重要です。

まとめ

ヒアリングフレイルは「聞こえにくさ」そのもの以上に、そこから生じる孤独感やコミュニケーションの断絶が大きな問題です。

  • 補聴器やツールで生活は大きく改善する
  • 医師や家族の言葉で本人の気持ちは変わる
  • 「仕方ない」と諦めず、関わり続けることが重要

耳の衰えは誰にでも訪れます。しかし小さな工夫と関わりで、家族の絆を取り戻すことは十分に可能です。

奥山美奈
奥山美奈
看護師、高等学校教諭(看護)を経てTNサクセスコーチング(株)を設立。管理者教育から採用プロジェクトチームの指導、人事評価の構築などの組織の課題をまるごと解決するマグネット化支援を行う。現職の管理職を、人を育て組織の経営課題も解決する「院内コーチ」へと昇格させる「コーチ認定制度」は奥山オリジナルプログラム。認定者のその数300名。ソフトテニスで3度の国体出場、2013年度マスターズ全国大会準優勝の経験から提供されるコーチングは圧倒的な成果を産んでいる。書著5冊。連載、講演多数。エルゼピアジャパン「上手な叱られ方」「医療にとって本当に必要な接遇とは何か」e-learning講師。S-QUE「訪問看護」e-learning総合監修。
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