高齢者とのコミュニケーション術|「もう、死んでしまいたい」と言われたときの対応法
2025.09.05
はじめに
介護や医療の現場で高齢者と関わるなかで、最も切ない言葉のひとつが「もう、死んでしまいたい」という訴えです。かつてはがんによる激しい痛みが原因でこの言葉を口にする方が多く見られました。しかし近年では、痛みの緩和ケアが進歩した一方で、介護状態や孤独感、喪失体験などを背景に「死にたい」と語る高齢者が増えています。本記事では、その背景と適切な対応方法を解説します。
「死にたい」という言葉の背景
医学的な痛みからの訴え
以前は、がん性疼痛などコントロールが難しい痛みのために「死にたい」と口にする方が多く存在しました。しかし現在では緩和ケアの普及により、痛みが原因での訴えは減少傾向にあります。
現代高齢者の「死にたい」の意味
最近よく聞かれる「死にたい」「生きていても仕方がない」という言葉は、身体的痛みだけではなく、孤独や役割喪失、心身の衰えなどに起因しています。かつての高齢者は「家族のため」「戦争で亡くなった人の分まで生きる」という使命感を抱く人が多く、同じ言葉を口にする人は少なかったのです。時代背景の違いが、高齢者の意識にも影響を与えています。
老年期の心理課題:「絶望」と「自我の統合」
心理学者エリクソンは、老年期の発達課題を「自我の統合」、危機を「絶望」と定義しました。
- 自我の統合…自分の人生を肯定的に受け入れること
- 絶望…喪失体験や身体の衰えから生きる意味を見失うこと
「死にたい」と語る高齢者は、この「絶望」の段階にあるといえます。背景には配偶者との死別、社会的役割の喪失、老化に伴う病気や身体機能の低下などが挙げられます。
「死にたい」と言われたときの受け止め方
信頼関係の証として受け止める
高齢者が「死にたい」と口にするのは、「この人なら聴いてくれる」と信頼しているからこそです。否定せず、うろたえず受け止める姿勢が大切です。
説教はNG
「そんなこと考えちゃダメ」と叱責したり、「家族が悲しむ」と説教するのは逆効果。本人はさらに孤立し、二度と本音を話さなくなる恐れがあります。
有効な対応ポイント
- 感情を反映する:「死にたいくらい辛いことがあるんですね」
- 悲しい表情で黙って聴く
- 自分の感情を率直に伝える:「あなたが死んだら私は悲しい」
これらの対応は心理学や看護学でも推奨される方法です。
自殺リスクを見極め、専門家へつなぐ
可能であれば以下の点を慎重に確認します。
- 自殺で「得られると思っていること」
- 実行経験の有無
- 方法の有無
多くの方は「楽になりたい」「苦しみから解放されたい」と答えます。これは治療や支援で改善可能な領域であることを伝え、安心感を与えることが大切です。そのうえで、リスクが高ければ速やかに精神科や心療内科へつなげましょう。
スピリチュアルペインへの理解
高齢者の「死にたい」には、身体的・心理的苦痛だけでなく「スピリチュアルペイン(生きる意味の喪失)」が関わります。
例えば「家族に迷惑をかけている」「役割がなくなった」といった思いです。ここで大切なのは、これまでの人生を振り返り、意味や価値を再確認できるよう支援することです。
- 「若い頃は先生だったんですね。どんな教科を?」
- 「字がきれいですね。生徒さんに人気だったでしょう」
といった声かけで、本人の人生を肯定的に再構築する手助けになります。
まとめ
高齢者から「もう、死んでしまいたい」と言われたとき、大切なのは否定せず受け止め、感情を反映し、共感的に聴くことです。
さらに、背景にある「絶望」や「スピリチュアルペイン」を理解し、過去の人生の価値を再発見できるよう支援することが求められます。専門的なリスクアセスメントや医療機関へのリファーも重要ですが、まずは身近な人が安心して語れる存在になることが第一歩です。





